金曜日, 12月 01, 2006

保土ヶ谷駅乱闘事件を振り返る

 自分で思うのだが僕はどちらかというと我慢強い方だ。たいがいのことには、ぐっと我慢できるつもりでいる。ただ限度を超して嫌なことをされるとどこかでスイッチが入ってしまうようなのだ。

 総武線グリーン車ケンカ未遂事件(http://zacky-kohs.blogspot.com/2006/11/blog-post_11.html)を前に書いたが、電車での同じような事件があった。総武線事件に先立つこと10数年前で僕がまだ20代だったころだ。

 そのオジサンは新橋から乗ってきた。時間は22時ぐらい。僕は会社での仕事を終えて東京駅から横須賀線に乗り自宅の保土ヶ谷に向かっていた。座席は空いていなかったのでドアのそばに立っていた。オジサンは普通のサラリーマン風なのだがどこかでひっかけてきていてベロンベロンになっていた。ネクタイなんかもだらんとしているしワイシャツもズボンからはみ出ている。僕の立っている近くのてすりにようやくつかまり何とか立っているといった状況。前後左右に揺れっぱなしだ。

「ああ、ずいぶん飲んじまってるなあ」
と思いつつ、こちらも疲れているので目をつぶる。
 しばらくして話しかけてきた。

「にいちゃん、あんたまだ若いからわからないだろうけどなあ、、」
「はい?」
「会社ってえのはたいへんなんだぞ。」
「はあ。」
「みんな気楽に考えやがって。」
「・・・」
「こっちの苦労も考えろ、っていうんだ。」

 困ったな。からみ上戸かな。まあ、しょうがない。適当に相手でもするか。

「たいへんですね。」
「何がたいへんだってんだ。まったくわかってねえくせに。」
「・・・」
「まだ世の中のことわかってないだろ?」
「ええ、そうかもしれませんが。」
「そうだろう、そうだろう。」
「はあ。」

 車両かえるのも悔しいから、このままシカトを決め込むか。本でも読もう。僕はカバンから持っていた文庫本を取り出して読み始める。オジサンからは少し体の角度をずらす。

 オジサンはしつこい。まだ色々言ってくる。何か余程いやな事でもあってストレスがたまっているのに違いない。時々、つりかわに全体重をかけてブランとなりながら意識を失い、また復活すると話し出す。

 新橋から乗ってきてずいぶん時間が経つ。このオジサン、どこで降りるんだろう。早く降りて欲しいのだが。

 新川崎を過ぎた。まだ何やら言っている。
 横浜を過ぎた。
「聴いてるのか?にいちゃん。」
「・・・」
「何、かっこつけて本なんか読んでるんだよ。」

 酔っ払いなのでしょうがないと紳士な対応をしていた積もりなのだが裏目に出た。我慢しすぎてスイッチが入ってしまったのだ。
(殺そう,次の駅でひきずり降ろして殺すしかない。)
 自分の心の中に殺意が芽生えたのを感じた。

 保土ヶ谷駅についた。僕はおもむろにオジサンのよれよれになったネクタイを左手で掴んで
「降りろや。」
 とドアからひきずり降ろす。そのままホームに押し倒した。車両に残った人は、驚いてこちらを見ている。押し倒したところで、もう十分だ。酔っ払っているからしばらくホームに寝てるだろう。

 僕は走ると怪しいので何も無かったように早歩きで改札への階段に向かう。まったく不愉快な30分だったな。

 ここで誤算があった。
 オジサンは意外にもすぐ復活して僕が階段を上りきったころで後ろから大声で追いかけてきたのである。もう言葉にもならないことをワーワー言いながら走ってくる。
 どうしよう?
 ここで走って逃げると何かこちらが悪いみたいではないか?
 まあ押し倒しているのだから悪いのだが。早歩きを続ける。改札の近くで追いつかれてもみ合いになった。  

 オジサンは殴ろうとしてかかってくる。こちらは飲んでもいないので、楽に避けられるのだが、オジサンは転びそうになりながら怒鳴りながらさらにかかってくる。こちらは避ける。たちまちあたりは帰宅してきた乗客で人だかりとなった。人だかりに囲まれながらこれを続けると駅員が止めにはいった。
「どうしたっていうんですか?」
他の駅員が警察も呼んだようだ。パトカーが駅に到着する。警官が駅の階段を上ってやってくる。そしてオジサンと僕は駅の事務所に連れて行かれた。

 被害者を装うしかない。事情聴取を受ける。カッコ内は本心。

警官「どうしたんんですか、何があったか話しなさい」
僕「それがひどいんですよ。このオジサンがずっと絡んできて。(うそじゃないよなあ、もともと被害者なんだし)」
警官「ケンカじゃないのか?」
僕「一方的に因縁つけられて追いかけてくるわけですよ。(引きずりおろしたのは僕か)」
警官「殴られたりはしてないのか?」
僕「ええ、だいじょうぶです。(というか先に手出したのはこっちだよなあ)」

 この間オジサンは泥酔の上にハアハア息切れして言葉も出ない。

 結局、警察も駅員一同も僕に同情票を集め、
「わかりました、お帰りください。たいへんでしたね。」
 という話になった。

 「そうですか、まったく迷惑な話です。」
と善人ぶって僕は帰路についた。後ろを振り向くと例のオジサンは警官に羽交い絞めにされてパトカーに乗せられた。署で尋問を受けるのであろう。 まったく自業自得だよね。僕もその日は何も考えずに眠りについた。

 さて翌日の朝。冷静に考えてみると。。。

 確かに言葉の暴力は受けたが物理的にはこちらが手を出しているわけだし、それが知れればやばいかもしれないな。だいたいどこに住んでる人かもわからないし、関係ない保土ヶ谷で降りたということがわかれば不自然だ。オジサンが警察で事実を言えばこちらにお咎めがあるはずだ。

 僕は不安になってきた。
 すると、電話のベルがなった。

「保土ヶ谷警察ですが。昨日の保土ヶ谷駅での騒ぎに関連した○○さん(僕)ですね?」

 き、来た~!!

「お聞きしたいことがあるので署まで出頭いただけませんか?」

 や、やっぱり~!!

 僕は覚悟して署まで出向いた。刑法詳しくないけどちょっとした軽犯罪ぐらいにはなるかもしれんなあ。

 署に行くと巡査風の人に取調室のようなところに連れて行かれた。僕は覚悟をして巡査の言葉を待つ。すると巡査はこう言った。

巡査「昨日はたいへんでしたね。昨日暴力を振るおうとしていた人は保土ヶ谷の△△に住んでいる方で、昨日は事情聴取にも答えられない状況でしたが今朝電話がありました。」
僕「なるほど。」
巡査「それで昨日のことをとても反省しているようです。あなたも不愉快だったと思うのですが許してあげていただけますか? もしよろしければこの書類に署名をお願いします。」

 た、助かった~!!!!

 オジサンはまったく記憶を失っているらしい。しかもたまたま保土ヶ谷駅が最寄の人だったのだ。僕は顔がほころぶのを抑え眉間にしわを寄せて答えた。

僕「まあ、反省しているならしょうがないですね。私も迷惑を蒙りましたが、実害もないので結構です。」
巡査「そうですか。ご足労いただいてありがとうございました。」
僕「いえいえお仕事お疲れ様です。」
 などと言いながら早々に事情調査の合意書のようなものに署名をし、内心は命からがら一刻も早くと思いつつ署を立ち去ったのだ。

 大事に至らずに本当に良かった!

 さて僕はこの事件で、ある反省をして以後気をつけるようにしている。

A.同じ手を出すのであれば立ち上がれなくなるほどボコボコにするべし。
B.どうせなら警察署でもっとつけあがって慰謝料でも請求すれば良かった。
C.正直に言わないと良心の呵責があるのでこれからは何事も正直に報告しよう。
D.どれでもない。( その場合の反省点:                      )

さてそれは上のどれでしょう?