2年も前の話だけれど登場人物やストーリーが何となく昨今の世の中の示唆を含むような気がするので忘れないうちにお話しておきたい。
夏のある日の昼のこと、千葉での仕事のミーティングを終えて別のミーティングのために蒲田に移動する途中の話である。僕は蘇我という駅から総武線の快速に乗り、疲れていたので品川までグリーン車でゆったりと小旅行を楽しむことにした。
千葉でのミーティングが長引いたために蒲田のお客様先オフィスに着くのは予定よりも若干遅れそうだった。お客様にも社内にも出席予定を伝えていたため遅れることをお詫びするために携帯電話で連絡を取ることにした。僕はグリーン車の2階の前から5列目ぐらいに自分の鞄を置き、グリーン車のデッキに行って会社の人に電話をかけることにした。僕以外にもう一人デッキで電話をしている人がいた。まだ蘇我駅を出発するには1~2分の時間があった。携帯電話で会話をしていると、突然大きな声で怒られた。「何を車内で電話してるんだ、まったく何を考えている!」と一人の老紳士がデッキまで来て叫んだのだ。僕は(電話をしていたもう一人も恐らく)びっくりして会話を早急に終え席に戻った。
老紳士は同じ車両の2階の最前列右側に座っており、僕が自分の席に戻った時も睨み付けて「まったく最近のものは」というようなことをはき捨てていた。確かに総武線のグリーン車はデッキと客席の間にドアがある訳ではないので、まあマナー違反ではあろう。それにしても席で話をした訳でもないので厳しいジーサンだなと思いつつ席についた。
その後、電車は駅を出てすぐ直後のこと。件のオジサンのすぐ後ろに座っていたギャル風の女性の携帯がなった。ギャルは席に座ったまま携帯を取りギャル風の声で「もしもし~、わたし~、なあに~?」と始めたのだ!当然のごとくジーサンは怒り狂った。いきなり立ち上がった。「こらあ!これが見えないのか!(これとは車両の前の壁に貼ってある携帯電話禁止のポスター) そういうことだ~!」と。ギャルは「す、すみません。。」とあわてて携帯を切る。ジーサンは座ってもまだぶつぶつと小言をいっていた。まったく!このギャルはさっき僕のことをわざわざデッキまで来て怒っていたのを見ていなかったのだろうか?その時にいたはずなのに。当然の結果じゃないか。おバカなギャルめ。
その後、千葉駅で何人か人がグリーン席に乗り込んできた。その中にひとり色黒のがっしりしたサーファー風のニーチャンがいた。ジーサンと同じ最前列の左側(オジサンの逆側)に座った。僕は何かいやな予感がした。ただし疲れていたのですぐに眠りに入ってしまった。
なにやら騒がしい声がして目が醒めた。予感が当たったらしい。ニーチャンはジーサンのいる右側に席を移動してジーサンににじりよっている。「何を生意気抜かしてるんだよ、このジジイ。」、「私は当然のことを言っているだけだ。君のような人にジジイと呼ばれる筋合いは、」、「何だと、てめえ、殴られたいか」というようなやり取り。ジーサンはだんだん声がか細くなりたじたじと。やはりな、と思った。恐らくニーチャンが携帯で電話をし始めてジーサンが注意したのだろう。
車内の人はというと誰も反応もせず、見てみぬふりを決め込んでいるようだ。僕はカチンと来た。ジーサンを助けるしかないな。さっきうるさく注意された小面憎いジーサンだが、まったくこの国の人々の無関心、ことなかれ主義といったら、許しがたいね。僕は立ち上がって最前列まで言ってニーチャンの左肩に後ろから手をかけてこう言った。「あんたが悪いんじゃないのか。車内で携帯使ったんだろうが。」(実は僕は寝ていたので見た訳ではない、でも否定しなかったからたぶんそう) するとニーチャンは立ち上がって「何だとう、何口出してんだ、オメーは!」と。ありゃ、このニーチャン思ってよりデカイのね、こりゃケンカすると負けちゃうなあ、と思ったがもうこうなっては引くわけにはいかない。弱みを見せたら負けだ、とことんやるかとスイッチが入った。以下、会話とカッコ内は本心。
「生意気に口出すんじゃねえよ、引っ込んでろ、コラ」
「お前が悪いから悪いと言ってるだけだろうが。(いきなり殴られたら痛いだろうなあ)」
「それよりテメエ、今俺のこと殴ったろう、腫れてきたじゃねえか、どうしてくれるんだ!」注:さっき肩に手をかけたことを指す。
「触っただけで腫れるなんてお前体でも弱いんじゃねえのか。(あっ、たち悪~っ、因縁つけてきたし)」
「ふざけんな、どうなるかわかってんだろうな!」
「いいから周りに迷惑だから座ってろ、お前。(誰か加勢してくれないもんかな、まったく)」
至近距離にいると一触即発のため僕は自分の席に戻る。ニーチャンも追ってはこずに席に座る。この後自席に座ったままで。ニーチャンはこちらを睨んでいる。
「ただで済むと思うなよ、コラ。」
「四の五の言わずおとなしくしてろ。(早く車掌かなんか来てくれないかな)」
・・・
この時、別キャラ登場。気が付かなかったがこの車両に外人が一人乗っていた。人の良さそうな中年の白人、やや肥満。
「ケンカ、イケナイデスネ。ワタシ、シャショシャンヨンデキマス。」
助かった~。早く第三者に入ってもらわないとホントにケンカになっちまう。外人はヒョコヒョコと通路を歩き前の車両方面に車掌を探しに。その後もニーチャンとのやり取りは続く。早く来てくれないかな、車掌さん。
外人が戻ってきた。やはりヒョコヒョコした足取りで。
「シャショシャン、イマセンデシタ。」
こ、この能無し外人!誰でもいいから連れてこいよ!(失礼、ミスター!この時はそれ程せっぱつまってたのです。)
このあたりまで寝起きから一発触発状態で興奮していたためいったいどこの駅を通過してるんだかわからなかったのだが、どうも次は東京駅らしかった。件のジーサンはニーチャンにやられて気落ちしていたのか、僕とニーチャンのやり取りには口を出さなかったのだがここでいきなり立ち上がってこう言った。
「皆さん、良かれと思って言ったことですが結果的に皆さんに不快な思いをさせてしまいました。申し訳ありませんでした。それでは失礼します。」
マジっすか。ジーサンのために体張ってるというのに降りちゃうの?僕はどうなる。するとその後、その車両に乗っている客全員が三々五々立ち上がり東京駅で降りようと席を立とうとするのだ。東京駅で降りる人も多いだろう。でもひとりぐらいその先のに行く人もいたのでは? みんなとばっちりを蒙るのが嫌なのだ。そしてニーチャンはというと、どうも行き先がその先であるらしく席に座ったままだ。僕の行き先は品川。まずい二人だけになったら間違いなくケンカになる。悔しいが僕もこの駅で降りた方が得策か。
ニーチャンのいる側に進んで席の近くでこう言った。
「オレはここで降りるがまだ文句があるなら降りて話つけるか?(そろそろ面倒だと思ってくれないかな、まあ降りられてもホームでもめれば人が集まってくるだろうから、今よりずっとまし)」
ニーチャンはそれ程悪人ではなかったらしい。
「わかったよ。俺が悪かったよ。もういいよ。」と不機嫌ながらも言ってきた。
「もういいってゆうならこっちもいいよ。(あ~!良かったあ、助かったあ、早く降りよ)」
東京駅を降りて、本当の行き先は蒲田なので乗り換えなきゃ。急いで階段上がろう。あ~命拾いした。この年で会社員でケンカになったらエライことだった。
話はだいたいこれでお終い。めでたし、めでたし、なのだがもう少しだけ続きがある。
階段を10段ぐらい上がったところで車両のあたりからさっきのニーチャンの怒鳴り声が聞こえる。ホームにいた駅員と揉めてるらしくて「しつこいな、こっちは謝ってるじゃねえか!」などと言っている。駅員の近くにさっきの外人が。どうも外人がホームに降りてそのへんの駅員に通報したらしい。ニーチャンは僕が駅員に言ったと思っているのか。駅員も正義感の強そうなオッチャンだ。
ここでもう逃げ去っても良かったのだが、もうここまで来ればもののついでだと上りかけていた階段を引き返した。駅員さんに、
「いや、もう話はついてるんですよ。何でもありませんから。」
ニーチャンは座席に戻り、これでやっと話は本当のお終い。ケンカ未遂で終わって本当に良かった!
2 件のコメント:
怖い怖い。ケンカ未遂で終わってよかったですね。スイッチ入ったところはかっこよかったでしょうが、ケンカになってたらどうなっていたか考えると怖い…。
そうですね。でも多分大丈夫ですよ。ボクシングでガードの方法は分かっていますし、長いものがあれば相手の面を割ることができます。その後は社会人としては生きていけないかもしれませんが。
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